大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)153号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告が主張する審決取消事由の存否について検討する。

1  構成の着想困難性について

(一)  多数袋詰装置の運転席との関係における位置決めについて

成立に争いのない甲第八号証によれば、第二引用例には、操縦席12の直後の後背部に穀粒タンク10を設けた刈取脱穀機が示されており、また、成立に争いのない乙第七号証の一(昭和四四年九月社団法人日本農業機械化協会発行「自脱型コンバインと乾燥機(循環)」第四頁)には、専用の袋ホルダーで、モミ袋の交換が片手操作で行え、袋詰のために機械の運行を停める必要がないコンバインが記載され、運転者がコンバインを操縦しながらモミ袋の交換のできるような近い位置に袋詰装置を設けることが示されていて、穀粒タンクや袋詰装置のような塵芥の出る装置を運転席の近くに設けることも、本願考案出願前に一にとどまらず考えられていたことが認められるから、原告主張のように多数袋詰装置は、運転席から離れた位置に設けること、また機外位置からの対面作業の対象となるのが一般的な技術常識であつたとしても、絶対的な固定観念という態のものではなく、本願考案のような運転席に近い位置決めも試みられ、特にこれについての問題点の指摘もあつたとは認められないので、この点を転用困難の根拠とすることができず、原告の主張は採用することはできない。

(二)  多数袋詰装置の機体との関係における位置決めについて

成立に争いのない乙第一号証(昭和四〇年一月二三日出願、実用新案出願公告昭四四―一五五七号公報)及び乙第二号証(昭和四〇年一二月一四日出願、実用新案出願公告昭四五―四九九九号公報)によれば、袋詰装置を機体中央部の側部に設けたコンバインが示されているので、原告が主張するように、多数袋詰装置を機体後部に設けるという一般的な技術常識があつたとしても、後部以外の位置決めが否定されていたわけではないことが認められ、前(一)項認定の事項をも参照すれば、機体との関係においても、本願考案のように機体中央部に近い側部にこれを設けることについて着想困難の根拠を認めることができず、原告の主張は採用することはできない。

(三)  第一引用例の技術内容について

成立に争いのない甲第七号証によれば、第一引用例には機体前部に乗用座席を設けたコンバインが示されており、前掲甲第八号証によれば、第二引用例には穀粒タンクを操縦席の直後近くに設けることが示されている。

そうして、穀粒タンクも、袋詰装置、又は多数袋詰装置の袋も、脱穀した穀粒を収容する容器であることで共通していることは明らかであるが、そうした穀粒の容器の位置を、運転席から切離して、また機体後部に設けることが、固定観念であつたとも認め難いこと前示認定のとおりであるから、本願考案のように、多数袋詰装置を運転席直後近くであつて、しかも機体の中央側部に設けることは、当業者であれば極めて容易に考えられるところであつて、したがつて、第一引用例のものを本願考案の容易推考の根拠の一つとする点に誤りはない。

(四)  第二引用例の技術内容について

前掲甲第七号証によれば、第一引用例には、コンバインの前部に近く運転席を設けることが示されており、前方を良く見通せるという作用効果を奏することが明らかであり、さらに前掲甲第八号証によれば、第二引用例には、運転席の後部に穀粒タンクを設けたコンバインが示され、そして、成立に争いのない甲第九号証によれば、周知例にはコンバインに多数袋詰装置を設けることが示され、当該装置が周知と認められるので、本願考案のように、前部に近い運転席を設けることと、その運転席の後部に、コンバインにおける脱穀した穀粒を収容する容器として穀粒タンクに代えて多数袋詰装置を設けることは、当業者であれば極めて容易に考えられるところであつて、第二引用例のものを、本願考案の容易推考の根拠の一つとする点に誤りはない。

(五)  穀粒タンクと多数袋吊持杆付袋詰装置との間の転用困難性について

前掲甲第八号証、第九号証及び弁論の全趣旨によれば、次のように認められる。

まず、穀粒タンクも多数袋吊持杆付袋詰装置の袋も、コンバインにおいて脱穀した穀粒を収容する容器である点では共通しており、そして、第二引用例の穀粒タンクが、運転中時たまに見る程度であつても、穀粒の選別状態、送入・収容の状態などは運転者によつて管理される対象となつていること、すなわち穀粒タンクを運転席の近くに設けると塵芥が運転者にかかる不利があることは、原告が主張し被告も一般論として争わないとおり本願考案出願前十分に知られていたのにもかかわらず、運転者が穀粒タンクを管理できる利点を採用して運転者の直後の位置にこれを設けた点では、本願考案の多数袋吊持杆付袋詰装置の位置の設定と同様であり、また、本願考案が多数袋吊持杆付袋詰装置として、穀粒を取扱うための特別の構成を限定しているものでもないので、第二引用例の操縦席直後の位置に設けられ、運転者が管理できるようにした、穀粒を収容する容器である穀粒タンクを、同じく運転者が管理できる穀粒を収容する装置である多数袋吊持杆付袋詰装置に変えることは極めて容易にできることであり、置換することができる性質のものであつて、転用困難ということはできない。

2  作用効果について

成立に争いのない甲第二号証、第六号証ないし第九号証に前1項の認定事実をあわせ検討してみると、原告が主張する作用効果は、コンバインに多数袋詰装置を設けることが周知であつたこと、また第二引用例のものに示されたものが、一人の作業員で操縦席で運転しながら、居ながらにして穀粒タンクの管理ができるようにしたものであることなどを考慮すれば、これらの技術の奏する効果から当業者であれば極めて容易に考えられ、予測できた範囲のものであり、格別顕著なものということはできないから、原告の主張する点をもつて本願考案の進歩性を肯定することはできない。

三  そうすると、原告の主張はいずれも認めるに由なく、本件審決を違法としてその取消を求める本訴請求は、失当として棄却するのほかはない。

〔編註その一〕本願考案に関する事項は左のとおりである。

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四五年三月一〇日、名称を「乗用コンバイン」とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願(昭和四五年実用新案登録願第二三三一五号)をしたが、昭和四九年一月二一日拒絶査定がされたので、同年三月二六日審判の請求をし、昭和四九年審判第二二一八号事件として審理されたが、昭和五五年三月三一日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年四月二三日原告に送達された。

二  本願考案の実用新案登録請求の範囲

左右一対のクローラー2上に設けた機枠1上に脱穀装置4を載置し、その前方下部に脱穀装置4と横巾方向に重なる状態で刈取引起し装置を設け、この刈取引起し装置後方から脱穀装置4に至る刈取り穀稈持上げ搬送装置13の側方位置に乗用座席6を設け、この乗用座席6の後方で且つこの乗用座席6から運転者の手の届く位置に籾袋14を多数吊持ちする支持杆15を設けると共にその対応下部に籾受台7を設け、この籾受台7に対応する上方位置には、前記脱穀装置4からの籾吐出し口8を開口してあることを特徴とする乗用コンバイン。

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面

(一)本願考案

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